『黒執事』14話のロンドンの暗黒時代背景

前半は原作を超えられず アニメとしてのおもしろさを活かしきれなかったが
2クール目に入ってやっと面白くなってきた


今回はカレー勝負 こういった料理対決は原作無視してアニメ独自にこだわるほど面白くなる


会場で使われた場所が少し気になった

これって水晶宮(The Crystal Palace)だよな
1851年にロンドンで開かれた第一回万国博覧会の会場
万博閉会後は解体されたが 1854年に再建されてる その後 催事場や博物館として1909年まで使われた
つまり黒執事ってのは このことから1854年〜1909年までの間の時代設定ってことだよな
切り裂きジャックのエピソードもあったが 切り裂きジャクは1888年だから時代設定としては合ってる


ところでこの当時のロンドンは切り裂きジャック事件など陰湿な雰囲気を持った都市で表現されることが多い
(霧がいつも立ちこめてジメジメした陰気な街という表現が多いが その霧は産業革命によるスモッグだったとか 当時アジアで起きた巨大な火山活動により灰がヨーロッパの空を覆って夏でも寒く陰気な季節になったとかいわれている)
切り裂きジャックは迷宮入りして オカルト信仰者の犯行だとか いろいろ言われてるが 死体を解剖研究する医師へ売る者の犯行だという説が一番有力だ
この死体販売者説にはもう一つのエピソードがある 切り裂きジャックより少し古い時代『ジギル博士とハイド氏』という小説が発表されている 医者と殺人鬼という二重人格者の話だ 小説の舞台は霧深いロンドン しかし作者はロンドンへ行った事が無い 作者の出身地イギリス北部のエディンバラをモデルにしたと言われている このエディンバラは医学 特に解剖学が進んだ街だった その解剖学を極めるには実際の死体解剖が必要だが なかなかつごうよく死体があるわけではない そこで 墓場から死体を泥棒する浮浪者(復活屋)から死体を買って医学の研究をしていたわけだ と言っても墓場から死体を泥棒するにも死んだ人がいなければ売る物がない 金持ち等は墓地に鍵のかかる檻を作って埋葬する2〜3日前から棺桶をそこに保管しその後埋葬する 新鮮な死体じゃなけりゃ解剖用として売れないのでその防御策だ 墓地自体も墓泥棒を監視する塔を作ったりして対策した そこに現れたのが ウィリアムバークとウィリアムヘアの2人だ(ジギル博士のモデルはウィリアムバークから死体を買っていた大学教授) 彼らは1828年街に流れてきた新参者や貧困層で身寄りのないものや売春婦を酔わせて首をしめ窒息死させて死体を大学の研究者へ売った 当時の死体は子供で1ポンド大人で15〜20ポンドときには30ポンドと言われている 現在の貨幣価値で5万程度らしいが 昔のことだ娯楽も乏しく生活水準も低い時代 浮浪者のような生活をしているものなら5万もあれば1月くらい遊んでくらせる というわけで彼らは1年半の逮捕されるまでの間に17人も殺した ほぼ1月に1人程度殺して死体を売っていたわけである これはすごい数だ 世紀の犯罪者と言われるほどの切り裂きジャックですら実際は5人しか殺してないのである
この伝説的事件をもとに切り裂きジャク事件も解剖学を研究する医者に殺した死体を売ったというのが有力になったわけである


ここでもうひとつ切り裂きジャック事件の方からはあまり語られない 別の視点から見た切り裂きジャックの時代背景がある
それは『フランケンシュタイン』である(というかエディンバラの連続猟奇殺人事件にしてもフランケンシュタインにしてもイギリス人にとってはあたりまえすぎてわざわざ語る必要のないほどの常識的な時代背景だったため日本人である私たちにとっては逆に新鮮でもある)
フランケンシュタイン』は切り裂きジャック事件より前 『ジギル博士とハイド氏』と同じ頃の1816年 当時19才だったロンドン生まれの少女が駆け落ち先のスイスで暇つぶしに書いた小説だ
彼女は当時の最新科学 生物のガルヴァーニ電流による実験によりヒントを得て『フランケンシュタイン』を発想した
カエルの死体の筋肉に電流を流せば動くという実験は人間(死体)の復活に応用できると信じられた時代である
これは医学の最先端技術としてさまざまな実験が行われた それら実験は時として新聞のトップ記事として世間を賑わした カエルだけでなく 牛 猿 さらには人間の死体へ発展するのは時間の問題だった そして実際フランケンシュタインのような人造人間を目指す科学者も本当にいたのである しかしその実験には人間の死体が必要である しかし学者の多くは代用動物でしか実験できなかったが 一部には死刑囚の死体を合法的に手に入れて実験していた なかには違法にあやしげな者から死体を買うものもめずらしくなかった時代だ 当時のイギリスは産業革命により工場に機械が導入され 生物の謎も同じように機械と電気の理論で解明されると信じられていた時代だ
そんななかでとにかく死体は金になった 今のように時代がめまぐるしく変化していないのんびりした時代 切り裂きジャック1888年でもまだその黒歴史をひきずってるわけである その理由が純粋に医学の解剖学の為か 死体復活の不死の研究のためかは判らないが とにかく死体は必要とされ不足していたのだ 
切り裂きジャックはウィリアムバークとウィリアムヘアのように純粋に死体を商売にするために殺したわけではない 殺人の状況を見ると殺す事に快感を覚えているような異常性格者のような片鱗を見せる しかし殺人には医学的知識があり 死体の一部が消えているなどの例からして 快楽殺人の末その一部を切り取り解剖学か生命の謎にいどむとにかく新鮮な死体を必要とする学者か医師に売り金銭を得ていたのは間違いないのだろう


ところで この時代のロンドンというと 切り裂きジャックとか コナンドイルによるホームズとかばかり表にでてくるが 産業革命で実際に現場で働いていた多くの一般市民たちはどうなってるんだって興味がわく フランスの怪盗ルパンはけっこう生活に苦しい人たちが出てくるが ホームズって貴族やらそれなりの生活してる人の描写の方が多いんだよね
時代からいうと古典SF映画の名作『メトロポリス』の話に繋がるはずだよな 
ってことは企業を支配する一部特権階級(貴族を含む)とプロレタリアート労働者との対立の歴史ってことか
つまり時代背景からすると黒執事の主人ファントム家も搾取貴族だったってことだよな


話は変わるけど この当時のロンドンってトイレなかったんだよね
窓から直接外の道路に向かって排泄したり 溜めておいた排泄物を窓から捨てたり
だからロンドンの石畳の道には排泄物があちこちにあってすっごく臭い街 あの石畳の道はこの排泄物を簡単に洗い流せるっていう意味もあったんだよ まあ徐々に建物の中にトイレも完備していったけどね
まあこれはフランスはパリのマリーアントワネットの時代も 今放送してる源氏物語の時代も同じ トイレなくて庭でみんな垂れ流し 異臭が蔓延してたと思うが それがあたりまえの時代 嗅覚も麻痺しててなにも感じなかったんだろうね